だから私は、私の一部を壊したのです。













彼女には好きな人がいました。
しかし彼女の好きな人の好きな人は、彼女の嫌いな人でした。彼女を嫌いな人でした。
彼女はそんな歌が好きでした。
もちろんそれで悲しいなんて泣いたりするわけではないのです。
彼女はただ、何でも良いからたぐり寄せたいだけなのです。
足りない何かを、はめ込んでみたいだけなのです。
足りない何かなんて、この世のどこを探しても在るハズなんかないのに。
だけど彼女は気付きません。気付かないというか、気付こうとしません。
その足りない物は、自分か、或いは誰かに壊されてしまったものだから。
もう戻ってくる事のないものだから。
そんなの分かってる。でも信じたくない。
だから彼女は狂っているのです。人並みに、人よりも。

彼女がそんな歌を聴いて、アイと虚路が戦っているとき
ボクはそっと彼女に話しかけるのです。

「この歌の主人公、君みたいだね」

みたいなんかじゃない、そのままなんだ。

「狂っちゃえ狂っちゃえ!狂って歌って踊って書いて!ぶっ倒れちゃえ!
誰かが止めても気にしなくても良いんだよ!
君は君なんだから!!!
きゃははははははは!!!!!」

彼女はどう思うんだろう。
何かを溜め込む度に、確実に壊れ逝く自分の世界の崩壊音を聞いて。
そしてその世界で繰り広げる、微かな主張を聞いて。


「感情移入なんてするわけ無いでしょ・・するとしたら、嘲笑ってる方にだよ。
彼女は何も考えずに歌ってる。」

「そんな事無いよ!彼女は本当に哀れんで・・」

「ないない!つーか、哀れんでたらそんな歌聞かねーよ!
そういうのに浸りたいだけだろ。ていうかそれより白い鯛焼きッ!」

「もー・・そんなんどーっでもいーじゃん・・?
歌に感情やらを見出して拾い上げるのも面倒くさい。」

「きゃははははは!!!なーんでもない、歌は歌さ!
彼女が作った、哀れな、歌!」

彼女が歌を唄うとき、は。
いつもいつも、朽ち果てた林檎みたいな顔をする。
そう、だから言いたくなるのさ。狂ってしまえ、と。

彼女は狂っている、と。

「歌なんて作って何になる!金になるのか?仕事になるのか?」

「あら、歌手になればいいじゃない!ねえ、それって素敵だわ!
可愛いお洋服を着て、ライトを一斉に浴びるの!」

「歌手になったら何でも食えるか?」

「太ったらおろされるぞ。」

「じゃあ駄目だ。」

「歌なんて煩いだけですわ!」

「そうかしら!私は歌がないと生きていけないわ!ららら〜♪」

「そんなので金を貰う気はない。馬鹿げてる。」

「きゃははははっ!お馬鹿さん達!
彼女は歌手になるつもりなんか無いよ・・!
だって彼女は狂っているもの!きゃはははははっ!!!」

「そんな事無い!彼女は狂ってなんか・・」

「じゃあなんだっていうのさ・・あんただって狂ってるよ!アイ!
きゃははははっ!!!」


彼女は狂っている。
だから、
だからボクらがいるんだよ。


「哀れな歌!きゃはははは!!!!」


歌え、歌え
うたい狂え。


「私はあの人が好き!」

「でもあの人はあの子がすき・・」

「あの子は私が嫌い」

「私はあの子がだいっっっっっきらい!」

「でも、あの人が好き・・!」



だから彼女は、彼女の一部を壊したのです。