Aボタンを押す、彼女の手は震えていました。
動機と目眩。頭痛に涙腺爆発の傾向。
どうか誰か、私を救ってくださいと悲劇のヒロインを演じています。
彼女はネガティヴな人間でした。
周りの人間は彼女の作った「無償アイ」や「セラ」に騙されています。
もちろんその二人は私のいけ好かない二人であり、私は彼女を救い出したい気持ちにいつも襲われていましたから。
私は彼女の頭で叫び続けました。他の誰しもと同じように。


「御伽の国へ行きましょう!御伽の国へ!
あなたの好きな真っ白のお城に住むの!天井からは豪華なシャンデリアがかかっているわ!
いつかやった「お姫様ごっこ」の空想みたいに、オーロラに光り輝くのよ!
長いテーブルにはケーキにジュースにチョコレート!
あなたを守るナイトだっているわ!王子様だってきっと、ね!」


そこは幸せの国でした。逃げてしまうのではありません、新しい世界へと飛び出すのです。
彼女は画面を見つめます。うっすらと涙が浮かびます。


「辞めろ。馬鹿馬鹿しい。何が御伽の国だ、何が王子様だ。
世の中金と仕事!それだけだ。王子もケーキもいらねえ」


出ました。私の一番嫌いな、「悲劇」です。
現実主義者で金と仕事が命。私のような乙女チック全開の妄想は、真っ向否定です。酷い話です。


「女の子なんだもの、王子もケーキも必要よ!男のあなたには分からないでしょうけど・・ね!」


「なんだと・・?」


「きゃははははっ!お馬鹿さん達!きゃはははははっ!」


「煩いですわ!お黙りですわ!」


「うっわぁ・・面倒臭い・・逃げてぇ・・」


「みんな辞めてよ!落ち着いて!」



これだから、私はちょっぴり彼女が苦手です。
もちろん、嫌いではありません。だって私も、彼女ですから。
でも彼女の頭の中はいつもぐちゃぐちゃで、すぐにこうやってみんな暴れ出してしまいます。
だから彼女はいつもぐちゃぐちゃです。もちろん慰める人もいません。
脆くて、弱くて、酷くて卑しい最低な人間になってしまうのです。



「御伽の国へ逃げましょう!御伽の国へ!
綺麗な服が沢山用意してあるわ!高くて買えないアクセサリーだって、
馬鹿みたいだって笑われるコスメだってなんだってあるの!
なんだってあなたを素敵にしてくれるわ!」


だから私も訴えなくちゃ、でなくちゃ私もぐちゃぐちゃになってしまうもの。
だからそう、みんな必死。


「あたしもモゥにさんせーっ!ケーキ!パフェ!クッキーよ!」


「金に決まってんだろ・・そしたらケーキもパフェもクッキーも買えるだろうが」


「きゃはははははっ!きゃははははははッ!狂っちゃえ狂っちゃえー!」


「煩いですわッ!!!もうみんなどこかへ行ってちょうだい!!!私の周りで騒がないで!!!」


「逃げよっかなぁ・・マジで」


「やめてみんな!やめてっ!!!」



壊れる、壊れる。
みんな分かってやってます。
壊れるから、騒がなくちゃ。壊れるから、静かにしちゃ行けない。


何より、一人にさせちゃ、いけない。






「ねえみんな。彼女は閉じこもってるんだから、現実世界で何をしても無駄だよ。
どんな妄想をしようと、どんな物を手に入れようと、彼女は閉じこもってるんだから」



引きこもりの虚路は言います。

活発かも知れない、明るいかも知れない、でも彼女は閉じこもったままだと。
だから私達が、いるのだと。


「ねえみんな騒いでよ。」



だから彼女は、私達に名前を付けたのです。




だから私は、彼らに名前を付けたのです。